【古事記】雁(かり)の卵(こ)

ある時、天皇が豊楽(とよのあかり:御宴)を開こうと、日女島(ひめじま姫島:大阪府の姫島あたり)に行幸(ぎょうこう:天皇が目的地に外出すること)なさった時、その島で雁(かり:ガン(カモ科の水鳥))が卵を生みました。

そこで、建内宿禰命(たけうちのすくねのみこと)を呼び寄せて、歌で雁が卵を生んだ様子を尋ねました。

「たまきはる 内の朝臣(あそ) 汝(な)こそは 世の長人(ながびと) そらみつ 倭の国に 雁卵生(かりこむ)と聞くや」

訳:

「建内の大臣よ、あなたこそは長寿の人である。この大和の国に雁が卵を産んだとと聞いたことがあるか」

*朝臣(あそみ、あそん)は、当時の八色の姓(やくさのかばね:真人(まひと)、朝臣(あそみ・あそん)、宿禰(すくね)、忌寸(いみき)、道師(みちのし)、臣(おみ)、連(むらじ)、稲置(いなぎ)」の八つの姓の階級制度))で、二番目に位置する階級の姓。

そこで、建内宿禰命(たけうちのすくねのみこと)も歌で語りました。

「高光る 日の御子 諾(うべ)しこそ 問ひたまへ まこそに 問ひたまへ 吾こそは 世の長人 そらみつ 倭の国に 雁卵生(かりこむ)と 未だ聞かず」

訳:

「高く光り輝く日の御子(天皇)よ、よくこそお尋ねくださいました。まことにお尋ねくださいました。私こそこの世を長く生きたものです。この大和の国に雁が卵を産んだとは、いまだ聞いたことはございません」

このように申し上げ、天皇に琴を賜(たま)わると続けて歌を詠みました。

「汝が御子や 終(つい)に知らむと 雁は卵生(こむ)らし」

訳:

「天皇やその御子が、終わりなく国を治めるだろうと、雁は卵を生んだのでしょう」

これは壽歌(ほぎうた:祝い歌)の片歌(かたうた:問答などに用いられ、二首の歌を合わせて一つの歌となります)です。

*雁は日本では、九州北部以北に冬鳥として冬の時期に渡来し、冬が終わるころには北極圏に渡って行き、繁殖期の5~7月は日本にはいません。日本で卵を産むことがない鳥なのでこのように驚いたと言うことです。

 

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