【古事記】大国主神の国作り~八千矛神の妻問い物語・前編「沼河比売との愛の歌(神語り)」

大国主神(おおくにぬしのかみ)となり出雲の国をお作りになり、須佐之男命との約束通り須勢理比売(すせりびめ:須佐之男命の娘)を正妻としご結婚されましたが、大国主神には八上比売(やがみひめ)という妻がすでにいらっしゃいます。

そこへ、突然大国主神が正妻の須勢理比売(すせりびめ)を連れてお帰りになったのでした。

八上比売(やがみひめ)は正妻である須勢理比売(すせりびめ)に遠慮をされ、生まれた自分の子を木の俣に差し挟んで故郷の因幡(いなば:鳥取県東部)へと帰ってしまいました。

そのような事から、その子を木俣神(きまたのかみ)とも、御井神(みいのかみ)とも言います。

また、ある時、大国主神は高志国(こしのくに:北陸地方)に沼河比売(ぬなかわひめ)という美しい姫がいるとお聞きになり、求婚しようと思われて、その家まで出かけました。

そして、家の外から中にいる沼河比売(ぬなかわひめ)に向かって次のお歌をお詠みになりました。

「八千矛(やちほこ)の 神の命は 八島国(やしまぐに) 妻娶(つまま)きかねて 遠々(とほとほ)し 高志(こし)の国に 賢し女(め)を 有りと聞かして 

麗(くは)し女を 有りと聞こして さ呼ばひに 有り立たし 呼ばひに 有り通(かよ)はせ 太刀が緒も 末(いま)だ解かずて 襲衣(おすひ)をも 

末だ解かねば 嬢子(おとめ)の 寝すや板戸を 押そぶらひ 我が立たせれば 引こづらひ 我が立たせれば 青山に 鵼(ぬえ)は鳴きぬ さ野つ鳥 

雉(きぎし)は響(とよ)む 庭つ鳥 鶏(かけ)は鳴く 心痛(うれたく)も 鳴くなる鳥か 此(こ)の鳥も 打ち止めこせぬ いしたふや 天馳使(あまはせづかひ) 事の 語りごとも 此(こ)をば 」

訳:

「八千矛の神(大国主神)は、大八島国で妻を娶(めと)ること出来ずに遠い遠い越の国に、賢い女性がいると聞いて、麗(うる)わしい女性がいると聞いて、

求婚をしに出かけ求婚しに通って、太刀の紐もまだ解かないまま、服もまだ脱がないまま、乙女の寝ている家の板戸を押し揺すぶり私は立っていると、引き揺すぶり私は立っていると、

緑の山に鵼(ぬえ:虎鶫(トラツグミ))が鳴き、野の雉(きじ)は騒ぎ、庭のニワトリも鳴いている。

いまいましく鳴いている鳥よ、この鳥ども、鳴き止まないものか。天翔ける使いの鳥よ、この事を語り伝えよう。」

 

すると、沼河比売(ぬなかわひめ)は戸を開けずに、家の中から次のように二首の歌を詠みました。

「八千矛の 神の命 萎(ぬ)え草の 女(め)にしあれば 我が心 浦渚(うらす)の鳥ぞ 今こそば 我鳥(わどり)にあらめ 後は 汝鳥(などり)にあらむを 命は な殺(し)せたまひそ

いしたふや 天馳使(あまはせづかひ) 事の 語り言(ごと)も 此(こ)をば」

訳:

八千矛の神(大国主神)よ、私はなよなよした草のような女です。私の心は渚(なぎさ)の鳥のようです。 

今は私の鳥ですが、やがてはあなたの鳥になりましょう。ですから命だけは殺さないで下さい。天翔ける使いの鳥よ、この事を語り伝え致しましょう。

「青山に 日が隠らば ぬばたまの 夜は出でなむ 朝日の 笑み栄え来て 栲綱(たくづの)の 白き腕(ただむき) 沫雪(あわゆき)の 若やる胸を そ叩き

叩き愛(まな)がり 真玉手(またまで) 玉手差し枕(ま)き 股(もも)長に 寝(い)は宿(な)さむを あやに な恋ひ聞こし 八千矛の 神の命

事の 語り言も 此(こ)をば」

訳:

緑の山に日が沈んだら 真っ暗な夜がやって来ます。あなたは朝日のような笑顔でやって来て、

栲網(たくづの:コウゾ(クワ科の植物で和紙の原料としても使われている)で作った綱が白いところから枕詞では「しろ」「しら」にかかる)のような私の白い腕、

沫雪(あわゆき:泡雪)のような私の若々しい胸を、そっと触れ、撫で、玉のような私の手を枕にし、足をのばし、いつまでも休まれることでしょう。

ですので、そんなむやみに「恋しい」とおっしゃらないでください。八千矛の神(大国主神)よ。この事を語り伝え致しましょう。

 

このように、大国主神と沼河比売(ぬなかわひめ)は愛の歌を詠み交わしました。これが「神語り(かむかたり)」で、男女の問答歌の始まりと言われています。

その後、大国主神と沼河比売(ぬなかわひめ)は、翌晩にお会いになり結婚されました。

 
大国主神の国作り~八千矛神の妻問い・後編「須勢理比売との愛の歌(神語り)」へ続く
 

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