【神祭をつかさどる神楽や芸能の祖の女神】

概要
天宇受売命(あめのうずめのみこと)は、天照大神が天岩戸に隠れてしまったと(【古事記】天照大御神と須佐之男命~天岩戸「八百万の神の策」)きに、なんとか外に誘い出すため、おもしろおかしく、また熱狂的な踊りを披露したことから、日本の芸能のルーツとされるようになった女神であり、「日本書紀」には「巧みに俳優(わざおぎ)をなし」と記されている。

これは、俳優のルーツともいわれ、「わざ」とは神のわざ(所作、行為、技)のことで、神がのり移ったような振る舞いをさし、また「おぎ」は招くという意味である。このことから「俳優」とは、神霊を招いておもしろおかしく振る舞いを演じて、なぐさめ、楽しませることをいう。

そこから派生し日本の様々な芸能が生まれたと考えられ、芸能の祖神とされているのである。

天宇受売命の踊りは、神前で舞を演じる神楽の始まりとされ、語源は「神座(かみくら:神が宿る場)」であるといわれ、神を招き、降臨してきた神を歓迎し祝福するために、神座において踊りを捧げることを意味する。同時に神楽には神の心を楽しませ和らげる「神遊び」の意味を含まれる。

この天照大神の天岩戸の神話は弱った(冬至のころ)日の光(太陽のエネルギー)の再生と考える説もあり、それに従えば、この神の役割は、弱った太陽神の心を踊りによって癒し、元気を取り戻すことだといえ、また、鎮魂祭(太陽の活力の再生と天皇の遊離した魂を取り戻す(生命力の再生)ことによって、世の中の平安を祈願する儀式)の儀礼の起源を語るものとも考えられている。

また、天宇受売命の大神と会話を交わす姿は、恍惚(物事に心をうばわれて、うっとりするさま)状態になって神と交信する様子を映したものと考えられることから、シャーマン(巫女)の役割や機能を表している。

天岩戸の話しの後、天宇受売命はニニギノ尊の天下りに随行し地上に降りることになったとき、国つ神のサルダヒコ命と出会い結婚。サルダヒコ神の故郷である伊勢国(三重県)に住み宮廷祭祀の鎮魂祭や大嘗祭等に関わる猿女君の祖神となった。猿女君とは、宮廷祭祀で神楽を舞うことを務めとする神祇官の役職名である。

このように、天宇受売命(あめのうずめのみこと)は、祭祀祈祷を行う超能力的な巫女集団の霊的パワーの神格化と考えられる。

別名・別称
天宇受賣命、天鈿女命など
神格
芸能の神(演劇、俳優の神、舞楽の神
性別
女神
神徳
武芸全般守護、芸能上達など
備考
元来は神事芸能のルーツとされる神であるが、あらゆる神々をも魅了する踊りのパワーが芸能、技芸一般に当てはめられて、舞楽の神、歌舞伎などの演劇の神、俳優の神、その他技芸全般の神として信仰される。

なお、三重県の椿大神八代摂社の椿岸神社は、芸能関係者や花柳界の芸妓さんなどの信仰が篤い。

神社

・佐倍乃神社(さえのじんじゃ:宮城県名取市)

・志波姫神社(しわひめじんじゃ:宮城県古川市)

・椿岸神社「椿大神八代摂社」(三重県鈴鹿市)

・千代神社(滋賀県彦根市)

佐留女神社「猿田彦神社境内社」(三重県伊勢市)

芸能神社「車折神社境内社」(京都市右京区)

増御子神社「大和神社摂社」(奈良県天理市)

など。